鱼肚色ってどんな色?

私は最近、中国の小学校の国語の教科書を使って、中国語の勉強をしている。
小学五年生の上巻をぱらぱらめくっていたとき、“日本清少纳言”の文字を発見した。
なんと中国の国語の教科書に『枕草子』の第一段が載っていたのである。

《四季之美》というタイトルで、卞立强という人が翻訳している。
(ちなみに国家中小学智慧教育平台というサイトでも教材の閲覧ができるが、最新版と思われるこちらには《四季之美》は載っていない。)

原文と比較すると情景が鮮やかになりすぎている気はするが、美文だと思う。
リズムもよくて朗読するのに向いている。

が、日本人の私からするとどうしてもツッコミたくなる箇所がいくつかある。
明らかに誤訳だと思う箇所があるのだが、それ以上に気になったのが春の描写である。

春天最美是黎明。东方一点儿一点儿泛着鱼肚色的天空,染上微微的红晕,飘着红紫红紫的彩云。

“鱼肚色yú dù sè”ってなんだ!?

魚の腹の色?
どこから出てきた???

だって、これに相当する原文といえば当然こうだ。

春はあけぼの。やうやうしろくなり行く山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。

魚の腹なんてどこにも書かれていないではないか。

私が鱼肚色の文字を見て真っ先に思い浮かべたのは、魚の腹を切り開いたときに現れる内臓の色だった。
赤黒い血の色。生臭いにおい。ちっとも美しくない。むしろ汚い。
だんだん白んでいく空の色とは似ても似つかない。

しかし、中国語の先生(中国人)に聞いてみたところ、鱼肚色はとても美しい表現だと言う。
というのも、鱼肚色は決して私がイメージしたような魚の腹の内側の色ではなく、外から見た魚の腹の色を指しているからだ。
確かに言われてみれば、魚の腹は外から見れば白い。

その白い腹に、魚の体の中を流れる血の色がほんのり透けてピンクがかっている。そんな色が鱼肚色だそうだ。
先生の解説を聞いてイメージし直してみると、確かに「やうやうしろくなり行く山ぎは、すこしあかりて」という描写にも合っている気がする。

さらに、中国人にとって魚は縁起物なのだそうだ。
中国語で“鱼yú”と“余yú”の発音は同じである。そこから、“有鱼”(魚がある)と“有余”(ゆとりがある)をかけて、魚=豊かさの象徴、と考えられているわけだ。
先生曰く、もちろん中国人も魚を食べるのが好きだが、味がどうこうよりも先に、めでたいものというイメージが浮かぶそうだ。
魚といえば食べるもの、美味しいか不味いかという視点でしか魚を考えたことのない私には思いもよらないことだった。


ところで、先生が“水煮鱼”という魚を使った四川料理があると教えてくれた。
画像検索すると唐辛子たっぷりで見るからに辛そうだが、今度チャレンジしてみたいと思っている。


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コメント

  1. 面白い内容ですね!

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    1. ありがとうございます!
      鱼肚色、興味深い表現ですよね。

      削除

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